展覧会 Exhibition

触れる、手繰る手つき

触れる、手繰る手つき

日程:2025年10月03日11月30日

「わたしたちは日々、様々な情報に触れている。」この一節を読んだ時、どのようなものを日々触れている情報と捉えるでしょうか。

 現代の私たちの日常は、インターネットの発達により世界中の人とつながることが容易になり、訪れることのできない場所で起きている出来事をリアルタイムで知ることができるようなりました。一方で、SNSをはじめとした視聴覚情報にその多くの割合がとられていると感じる人も多いのではないでしょうか。自らの身体を通した「一次情報」としての経験が希薄になってしまう時代に私たちは生きているとも言えるかもしれません。本来確かなものであるはずの一次情報としての感覚や経験に不確かさを感じ、他者と異なることに不安や焦りを感じてしまうのかもしれません。

 本展では「触れる」をテーマに、様々な表現者のその手つきをたどります。美術家や工芸家自身も素材や道具、または歴史や記憶といった対象に「触れる」という感覚から創作が出発することも多いことでしょう。そして、それは私たちの感覚にも通じるため、時に心動かされ、言語化しにくい原初的な感覚を引き起こすのかもしれません。また、「触れること」は身体的接触だけではなく、自己の内面、感情や記憶、または歴史や文化など形を持たないものに向き合うことでもあります。それは感覚を頼りに自らのもとへ手繰り寄せる行為であり、自己や他者、そして世界との実感を伴った向き合い方につながるはずです。多様な側面から私たちの感覚、そして創造力を通して物事に触れることについて考えるきっかけとなることを目指します。

開催概要

会期 2025年10月3日(金)~11月30日(日)
会場 佐賀大学美術館 1階 ギャラリー1,ギャラリー2,スタジオ
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30分まで)
休館日 月曜日(祝日の場合、翌火曜日休館)
観覧料 無料
主催 佐賀大学美術館
企画 五十嵐純(佐賀大学美術館 学芸員)

関連イベント

『NAIZOUクッション』にみんなで触る人魚集会
講師 ブブ・ド・ラ・マドレーヌ、チームNAIZOU
日時 2025年10月4日(土)13:00~14:30
会場 佐賀大学美術館
対象 どなたでも(小学生以下は保護者同伴)
参加費 無料
申し込み 事前申込制(TEL 0952-28-8333)

ブブ・ド・ラ・マドレーヌは、本展に合わせて新作インスタレーション「人魚の領土-舟と内臓」を制作します。その製作にあたり、協力していただくボランティアチームとして「チームNAIZOU」(クッション製作)と「チームtaieki」(製作サポート)を結成し、7月から活動を始めました。本イベントは、このふたつの活動に参加して下さった方たちにお話を聞き、また会場のみなさんと一緒に「触れること」について話す、トークイベントです。

 

現在、ワークショップ参加者も募集しています。詳しくは以下のリンクをご覧ください。
ブブ・ド・ラ・マドレーヌ 作品制作ワークショップ参加者募集のお知らせ

佐賀錦手織り体験
講師 佐賀錦振興協議会
日時 2025年11月14日(金)~16日(日) 10:00~16:00 ※最終日のみ15:00まで
会場 SUAM PLUS 1F
対象 どなたでも(小学生以下は保護者同伴)
参加費 無料
申し込み 不要、当日会場にお越しください

金、銀、漆を貼った和紙を経糸に、染色した絹糸を緯糸として丹念に織り上げた伝統工芸品・佐賀錦。絢爛豪華なこの織物は全てが手織りで行われ、非常に根気のいる手仕事で一日わずかしか織り進むことができません。このイベントでは、手織り体験(1~2段程度)を行っていただけます。(所要時間30分~)
また、オリジナルキーホルダーやアクセサリー作り(要材料費)なども開催します。

ことばで触れる、かたちの世界 ー手で鑑賞するワークショップ ー
講師 <ミルミルつながるプロジェクト/メノキ×JINS> 一般社団法人メノキ 代表理事 三輪 途道、一般社団法人メノキ 副代表理事 福西 敏宏、株式会社 ジンズ 地域共生事業部 秋本 真由美
日時 2025年11月22日(土) 13:00~14:30
会場 SUAM PLUS 1階
対象 高校生以上(見える人・見えにくい人・見えない人、どなたでも参加可能です)
定員 先着20名
参加費 無料
申し込み 9月2日(火)より事前申込制(TEL 0952-28-8333)
全盲の彫刻家・三輪途道さんの作品つくりや人生観についてのお話しや、一緒に「手で見る」を体験する90分。見える人、見えにくい人、見えない人、どなたでも参加できるワークショップです。
担当学芸員による展覧会解説
日時 2025年11月16日(日) 13:00~14:00
会場 佐賀大学美術館
対象 どなたでも
参加費 無料
申し込み 不要、当日会場にお越しください

アーティスト

榎本浩子 ENOMOTO Hiroko
榎本浩子 ENOMOTO Hiroko
撮影:中村脩

群馬県生まれ。 女子美術大学大学院美術研究科修了。
日々の出来事を題材に、弱さや傷つきやすさとその修復をテーマに制作や活動を行なっている。 主な活動歴に『庭の記憶/土地の修復』(2023年、Art & Garden ねこぜ、大分)、『クリテリオム99 榎本浩子』(2022年、水戸芸術館 現代美術ギャラリー、茨城)、『ここの庭』(2022年、ゆいぽーと、新潟)がある。

《いとちゃんのいるところ》 2025年、5.5×10.0cm、陶器
《いとちゃんのいるところ》 2025年、5.5×10.0cm、陶器
「クリテリオム99 榎本浩子」 2022-2023年
水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景
撮影:天野祐子
写真提供:水戸芸術館現代美術センター
「クリテリオム99 榎本浩子」 2022-2023年 水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景 撮影:天野祐子 写真提供:水戸芸術館現代美術センター
木下由貴 KINOSHITA Yuki
1986年佐賀県生まれ。多摩美術大学絵画学科中退。佐賀県在住。

自然物を信仰の対象とする自然崇拝や神話への関心から各地を巡り、自身が持つ形のない信仰心や内在する原風景と結びつく光景を撮影している。人が潜在的に抱く目に見えない祈りや信仰のはじまりを捉える試みを続ける。主な展覧会に「林良二木下由貴 二人展」(2024年、武雄市文化会館、佐賀県)、「Local Prospects 3 原初の感覚」(2017年、三菱地所アルティアム、福岡県)、「淵と瀬」(2017年、金子ビル、福岡県)、「内在の遠景」(2014年、福岡市内4会場、福岡県)など。

 

《無題》〈内在の遠景ー光ー〉より  2024年、発色現像方式印画、29.8×37.2cm、作家蔵
《無題》〈内在の遠景ー光ー〉より  2024年、発色現像方式印画、29.8×37.2cm、作家蔵
《無題》〈内在の遠景ー光ー〉より  2024年、発色現像方式印画、29.8×37.2cm、作家蔵
《無題》〈内在の遠景ー光ー〉より  2024年、発色現像方式印画、29.8×37.2cm、作家蔵
佐賀錦振興協議会 SAGANISHIKI SHINKO KYOGIKAI

佐賀錦は1993(平成5)年に佐賀県より「伝統的地場産品」の指定を受け、さらなる普及や後進の育成を目的として「佐賀錦振興協議会」が設立。現在、佐賀市歴史民俗館・旧福田家を拠点に初心者講習会を実施している。

 

佐賀錦
江戸時代末期に肥前(佐賀県)鹿島藩鍋島家の深窓で創案作成され、鹿島鍋島家の女性たちの苦心による創出であるといわれている。金・銀・漆を貼った特製の和紙を細かく裁断したものを経紙とし、絹の撚り糸を染色したものを緯糸として丹念に織げられたもので、紋様は伝統的な網代(あじろ)、紗綾(さや)型、菱等、多種多様なものがある。

手提げバッグ、佐賀錦振興協議会
手提げバッグ、佐賀錦振興協議会
ブブ・ド・ラ・マドレーヌ BuBu de la Madeleine
ブブ・ド・ラ・マドレーヌ BuBu de la Madeleine

1961年大阪市生まれ。京都市立芸術大学美術学部構想設計専攻卒業。1992年にダム・タイプでの活動を開始。メンバーとしてパフォーマンス《S/N》(1994-96年、15ヶ国20都市を巡回)に出演後、様々なメディアによる作品を発表。同時にHIV/エイズとともに生きる人々やセックスワーカー、女性、セクシュアルマイノリティなどの健康と人権に関する市民運動に携わる。また、クラブシーンでドラァグクイーンとしても活動。近年の主な展覧会に「人魚の領土―旗と内臓」オオタファインアーツ、東京(2022年)、「花粉と種子」(2024年、オオタファインアーツ7CHOME、東京)、「コレクション2 身体———身体」(2024年、国立国際美術館、大阪)など。主な収蔵先に、国立国際美術館(大阪)、東京都現代美術館。

 

《瀬戸内海001》水図プロジェクトより 2012年、帆布にアクリル、鳩目、212×412cm、作家蔵、撮影:林口哲也
《瀬戸内海001》水図プロジェクトより 2012年、帆布にアクリル、鳩目、212×412cm、作家蔵、撮影:林口哲也
展示風景 ブブ・ド・ラ・マドレーヌ個展「人魚の領土—旗と内蔵」オオタファインアーツ、東京(2022年)、国立国際美術館蔵、撮影: 鐘ヶ江歓一、© BuBu de la Madeleine. Courtesy of Ota Fine Arts.
展示風景 ブブ・ド・ラ・マドレーヌ個展「人魚の領土—旗と内蔵」オオタファインアーツ、東京(2022年)、国立国際美術館蔵、撮影: 鐘ヶ江歓一、© BuBu de la Madeleine. Courtesy of Ota Fine Arts.
メガーナ・ビシニア Meghana Bisineer
メガーナ・ビシニア Meghana Bisineer
photo : Charlotte Law

1978年インド生まれ。アーティスト、キュレーター、教育者。アニメーション、インスタレーション、パフォーマンス、儀式的な実践など、多様な表現を横断しながら活動している。彼女の作品は、風景や場所に結びついた「時間」や「記憶」のあり方を身体的に探るものであり、個と集団、精神性と政治性の境界をゆるやかに溶かすような没入的な体験を生み出している。現在は、サンフランシスコのカリフォルニア芸術大学においてアニメーションおよび大学院ファインアートの准教授を務めており、アメリカ、インド、イギリスを拠点に活動している。実験的アニメーションのサロン「Eyewash」の共同キュレーターであり、シエラ・フットヒルズに拠点を置くアーティスト・レジデンシー「Upstream」の設立者でもある。

《悪しきヤントラ 残酷なマントラ》 2023年、シングルチャンネルビデオ・音声、3分00秒、ミクストメディア・アニメーション、作家蔵
《悪しきヤントラ 残酷なマントラ》 2023年、シングルチャンネルビデオ・音声、3分00秒、ミクストメディア・アニメーション、作家蔵
《ムドラ(愛されることへの渇望)》 2023年、シングルチャンネルビデオ・音声、2分48秒、窓にインクで描いたアニメーション:メガーナ・ビシニア/話し声:マイナ・ビシニア/ラーガ(歌声):ヴィッディヤ、作家蔵
《ムドラ(愛されることへの渇望)》 2023年、シングルチャンネルビデオ・音声、2分48秒、窓にインクで描いたアニメーション:メガーナ・ビシニア/話し声:マイナ・ビシニア/ラーガ(歌声):ヴィッディヤ、作家蔵
三輪途道×ミルミルつながるプロジェクト MIWA Michiyo×Mirumiru Tsunagaru Project
三輪途道×ミルミルつながるプロジェクト MIWA Michiyo×Mirumiru Tsunagaru Project

彫刻家。1966年群馬県に生まれる。1994年東京芸術大学大学院美術研究科保存修復技術専攻修了。写実彫刻を中心に制作を展開。仏像制作の技術を生かし、作家の日常を木彫で表現する。特に土着性を重んじ自分の足元を掘り下げることを制作の核としている。50代前半で視力を失い、手の感覚だけで作品を制作し、「ふれて鑑賞する」展覧会を各地で開催している。近年の展覧会としては、「ヒューマンビーイング-藤野天光、北村西望から三輪途道のさわれる彫刻まで」(2024年、群馬県立館林美術館、群馬)、「はじまりの感覚」(2025年、アーツ前橋、群馬)に出品。「見えなくなっても美術館に行きたい」という想いを実現するために一般社団法人メノキを立ち上げ代表理事となり活動を展開している。

 

ミルミルつながるプロジェクト/Mirumiru Tsunagaru Project

「ミルミルつながるプロジェクト」は、五感を通して得た感覚を対話によって共有することで、感覚の違いの豊かさを知り、他者への共感を育み、さまざまな個性を持ったみんながつながる活動を推進することを目的としています。

ミルミルつながるプロジェクトでは、群馬県の郷土かるたである「上毛かるた」を全盲の彫刻家・三輪途道(みわ みちよ)が自身の新たな解釈で、みんなが繋がるためのコミュニケーションツール「みんなとつながる上毛かるた」として開発。

見える人、見えない人、見えにくい人、「上毛かるた」を知っている人、知らない人、老若男女全ての人が共に触れて楽しめる「みんなとつながる上毛かるた」を使って活動を続けています。

 

一般社団法人メノキ/General incorporated association “Menoki”

視覚障害当事者で彫刻家の三輪途道が友人たちと、視覚障害者と芸術文化をつなぐことを目的に2021年に立ち上げた。群馬県内の大学・美術館・企業・点字図書館などと協働し、障害のあるなしを越えて、芸術活動を楽しめるような環境を地域に作ることを目指して活動を続けてきた。ぐんまインクルーシブアート研究会を3年にわたって開催し、また、株式会社ジンズと、三輪代表の作品である「みんなとつながる上毛かるた」を使った「ミルミルつながるプロジェクト」を展開、当初の視覚障害者を対象にした活動から、障害のあるなしを越えて、さまざまな個性を持った多様な人たちが共に芸術文化を楽しむ環境づくりへと活動の幅を広げつつある。
https://menoki.org/

三輪途道 《醤油せんべい皿》 2022年、脱乾漆・彩色、9×47.5×41cm、撮影:木暮信也
三輪途道 《醤油せんべい皿》 2022年、脱乾漆・彩色、9×47.5×41cm、撮影:木暮信也
三輪途道 《しじみの家族 PAPA》 2020年、脱乾漆・彩色、26.5×29.5×16.5cm
三輪途道 《しじみの家族 PAPA》 2020年、脱乾漆・彩色、26.5×29.5×16.5cm